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光 フ ァ イ バ 信 号 伝 送 の 実 際

第1章 光と信号伝送

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1.1 人の情報伝達の仕組
 

 人は必要に応じて外部と情報のやり取りを行うわけですが、人体をひとつの情報処理システムと見立てその機能と性能について考えてみましょう。
人間には、五感を介して刺激という外部信号を捕らえ脳に伝達するいわゆるセンサ機能と、脳からの指令を身体の動作を通じて外部に出力するアクチュエータ機能を持っています。
 たとえば他人からの音声を聞き取り、脳で判断,処理した上、発声で情報を伝える会話などは、この情報伝達の典型的な例です。
人は、それぞれ異なった伝達媒体に対応する複数のチャンネルがあって、互いの特長によって補間し合っています。
感覚センサ(五感)は、下記 表1.1に示すように伝達の媒体によって四つの区分に大別されます。(味覚と臭覚は、ここでは同じ分類)

 
 センサの種別
 A.味覚、臭覚
B.触覚
C.聴覚
D.視覚
器官名
鼻、舌
皮膚
伝達媒体
化学物質
物理量
振動
電磁波
受信帯域
20〜20kHz
380〜770nm
伝達距離
接触
応答速度
遅い
比較的遅い
比較的早い
数十ms
対応する
アクチュエータ
なし
 指等
発声器官
なし

表1.1 人体のセンサとアクチュエータ機能



 まずセンサAは化学物質を感知する味覚と臭覚です。この二つはごく特殊な場合以外、通信の手段としてはあまり役には立ちません。
 Bの触覚は圧力,温度等の物理量をセンシングします。触覚そのものは情報のセンサとしては分解能が低く応答速度も遅いのですが、点字やキーボード等などの補助手段を使って送受信機能を強化することができます。直接アクチュエータとして対応するのが、運動機能を持つ四肢,指などです。
 Cの聴覚は、空気の振動を媒体とし、有効範囲は限定されますが情報伝達に重要な役割を担っています。最初に述べたように、発声器官をペアのアクチュエータとする典型的な双方向通信システムといえましょう。人間の耳が聴取可能の振動周波数範囲は 20〜20kHzと比較的広帯域ですが、音声による言語の伝達は時系列的に直列に行われ、符号化されていない場合、母音あるいは子音の組み合わせによって意味を持たせるため冗長度が大きく、伝達速度はずっと遅くなります。
 Dの視覚は光(電磁波)に対するセンサです。可視光線の赤(波長770nm)〜紫(380nm)は、超長波から宇宙線にわたる電磁波の中ではごく狭い認識可能範囲です。受光強度の時間変化に対する応答は数十msですが、高分解能の面パターン認識が可能で、総合的な受容情報量は他の人体センサと比較にならぬほど大きいといえます。また眼は、まぶたという保護機能を持つただ一つの器官です。しかし不思議なことに、人体にはこれとペアになる直接的なアクチュエータは備わっていません。


 人間の体は、このように化学,物理,振動,電磁波などと異なる種類の外界の刺激をセンシングすることができるわけですが、これらの生理学的センサは、それぞれユニークな特長を持っています。
 味覚,臭覚,触覚は特性が少しずつ違う多数のセルによって面センサを構成し、対象となる物質の微妙な性質を判定します。
 聴覚,視覚はそれぞれ顔の両脇に対称に位置するペアのセンサ(耳,眼)が、音あるいは像の入力位相を感知し、立体的な信号として認識します。



 人体に加わる外界の刺激のダイナミックレンジは非常に大きく、例えば暗闇と直射日光,演奏会でのバイオリンのソロからフルオーケストラの音量など、時としてそのエネルギー比は数万倍以上に及ぶことさえあります。しかしこれを受け止める人体には、まぶたの開閉は例外として入力レベルを物理的に制限する仕組みを持っていません。それにもかかわらずセンシング機能は破壊されることもなく、ピーク入力に耐え、低レベルの入力も精度よく処理することができます。また人の頭脳はこれらの多様な入力信号に対し、一種の選択性AGC(Automatic Gain Control)の働きを持ち、この心理的フィルタにより不要な情報が軽減あるいは無視され、信号対雑音比S/Nの向上に貢献します人体のセンシング機能は入力振幅に対し対数的になっていて、絶対値の認識よりむしろ相対的な値の比較,積分能力に優れています。
 一般に、広いダイナミックレンジのリニア信号を高精度に処理するには、乗除を加減算に変換する振幅の対数圧縮が有効です。元の信号レベルと信号の変化分の比を積分した場合、信号のレベル(例えば明るさ、平均音響レベル等)をX,その変化量をΔxとすると、センシングレベルSは

となります。
 たとえば底を10とする常用対数では、10のべき数が1増える(10倍になる)ごとに絶対値は2倍になり、人間の感覚とよく一致する関係にあります。(図1.1)



図 1.1 対数スケールと直線スケール
 
 音のレベルの比較や大きさに対し、デシベル,フォンなどの単位が使用されるのは、この理由によります。すなわち人間を比較測定器としてみれば、ダイナミックレンジが広く、小信号分解能もよく、優れた利用価値があります。
 人に関する情報授受に際しては、指の触覚で点字情報が入力される場合もありますが、主として眼と耳が直接の入力ポートとなり光信号と音響信号を受信します。
 送信は音声あるいはキーボードを介在させた指の操作で行い、そのほかの身体器官は副次的、補助的な役割を果たすことになります。



   
 

1.2 電波による無線通信
 

 電波伝搬を利用する無線通信においては、低いキャリヤ周波数では変調波に対する周波数比が小さいので、利用できるチャンネル数には限界があり、多重電話回線や画像放送などの広帯域,多チャンネル信号を伝送するためには、キャリヤ周波数を高くとる必要があります。したがって数MHz以上の周波数帯域を要するTV放送ではUHF、多重通信の伝送や衛星放送にはGHzオーダーの領域が使用されます。さらに周波数が数百GHz以上、波長が1nm以下のサブミリ波は遠赤外光であり、いわゆる電波と光の区分がオーバーラップする領域となります。



   
 

1.3 光による通信
 

 我々人類は、太陽光,月光などの自然光や、松明など火を利用した人工光で照らされた物体からの反射光を眼で捕らえて周囲の情報を把握してきました。この延長線上で、人間が直接認識できる可視光線による通信には、狼煙を初めとした古い歴史があります。船舶間の閃光交信などは、光をON,OFFし、人間の眼を受信機とする直接空間伝送方式で、初期の無線電信において電波を断続して符号を送信するA1変調方式に相当する代表的な例といえます。しかし光の放射を制御できる光源は非常に限定され、人間の眼に以外適当な受信デバイスがないこともあって、光を用いた通信はなかなか進歩しませんでした。
 当初、電子技術の急速な進歩に伴って、通信手段の主流は電子回路に依存し、光に関する技術開発は、通信関係よりむしろ照明や画像処理に主眼点が置かれていました。しかし膨大な量の情報の高速伝送が要求されるようになると、この目的に適した光通信に必要なデバイスが続々と開発されるようになりました。通信用光ファイバも実用化され、それらの優れた総合特性により在来の無線、有線通信システムが次々に光システムに置き換えられています。

 光通信の送信に用いられるLDは、小形,長寿命,高速変調性,低消費電力など、制御光源として非常に優れた特性を持っています。受光素子のフォトトランジスタ、PINフォトダイオードもLED、LDの特性とよくマッチし、光ファイバとともにバランスのとれた組み合わせが作れます。使用する波長範囲も可視光には限定されません。
 光をキャリヤにして信号を変調し、空間や光ファイバにより伝送する場合は、いわゆる電波に比べキャリヤの周波数が非常に高いので、素子の特性さえ許せば送信信号の帯域は十分広くとれ、情報の伝送量は比較にならぬほど大きくなります。



   
 

1.4 電気通信と光通信
 

 電波による信号の空間伝送では、長距離や移動体間の通信,放送等不特定多数との情報伝達に用いるのに有利です。光は見通し内の空間内を直進し伝搬しますから、各種民生機器,設備機器等のリモートコントロールなど、短距離の限定された通信に広く応用されます。
 電線による閉じた伝送と対応するのが光ファイバによる伝送で、通常送信側と受信側とが1:1の伝送をおこなうのに適しています。光ファイバでは、光がファイバ内に閉じ込められ、エネルギーの漏洩が少なく守秘性に優れています。同軸ケーブルと光ファイバの伝送特性は、それぞれの種類によって異なるので単純な比較はできません。



   
 

1.5 信号とデータ処理
 

 光によって伝送される情報は、電気的手段によって行われる伝送とほぼ同じです。それらの信号の概要を述べておきましょう。

  1 アナログ信号とデジタル信号

 アナログ系では、量の大きさを理解しやすい他の物理的な連続量(例えば長さなど)におきかえて処理します。指針形のはかり,速度計,時計などは、重さ,スピード,時刻等を円弧の長さを示す目盛に置き換えて表示しています。アナログの表示器たとえばメーターなどは、精度は2〜3桁と低いのですが、量を直観的に把握することができます。アナログ信号は、信号波形そのものが情報を受け持つので、信号の入力波形が出力に正確に伝送される必要があります。
 これに対しデジタル系では、量を量子化された不連続的な数字で表現します。デジタルはかり,デジタル時計などと呼ばれる通り、表示値が直接数字などで表現されます。デジタル信号は、信号の有無(0,1)およびその時間的な関係が情報を受け持ちます。したがって伝送路に必要な特性は、アナログ信号の場合とかなり異なります。


  2 データ処理のながれ

 自然界の現象のほとんどはアナログ量です。この量を対象とするデータ処理システムでは、まずアナログセンサを用いてなんらかの形で電気量に変換します。これらの各種センサは各分野にわたり多種多様な種類があり、目的によって変換手段が確立されたものがほとんどです。

 センサにより電気量に置換されたアナログ信号は、そのままアナログ的に処理されるか、必要に応じてA-D変換器によってデジタル信号へ変換されます。デジタル変換された情報は、電子計算機に代表される諸種のデジタル装置,システムによって処理され、最終的にはプリントアウトや表示器上の視覚情報等として出力されます。さらに必要があれば、D-A変換器によって再びアナログ信号に復調されます。情報信号は、このようなデータ処理のながれにしたがって機器内,機器間を伝送されます。


  3 光信号伝送の意味

 書類などによる直接的な手段は別にして、データ処理を伴う信号の伝送は、情報を担うエネルギーの移動によって行なわれます。音,光,電気エネルギー等が媒体として用いられますが、現在各種の信号伝送の大部分は電気エネルギーのそれに依存しています。なぜなら、広いダイナミックレンジにわたる電気エネルギーが電線によってきわめて容易に授受でき、送受端端末の処理の手段がよく整備されていることによります。電子装置が各分野で不可欠の理由の一つがそこにあるわけです。
 情報信号の伝送に必要なエネルギーはマイクロ,ミリワット程度と非常に小さく、端末のデバイスは、通常大きな電気的エネルギーを受容できません。雷放電等の自然現象や電気機器の電力関連部分は、これらの信号エネルギーに比べはるかに大きいので、信号と同種のこの電気エネルギーが信号伝送路や共通接地線に誘導されれば、雑音源となって情報の質を損なうばかりでなく、時として機器が破壊されてしまいます。従って信号の種類に最適な伝送方式の選択と、有害なエネルギーの排除対策が必要不可欠になります。

 電気的関係に着目すれば、電子機器は図1.2 に示すような構成が一般的で、入力ケーブル,出力ケーブル、それに電源が接続されています。これらの外部接続線と、機器本体から空間的に誘導あるいは発射される電磁波が有害雑音の入出力口となっています。この中で電源からの雑音の侵入や漏洩は、フィルタやノイズを遮断するトランスを使って有効な防止手段があります。また有害な電磁波に対しては、静電,電磁的シールドによる対策があります。したがって機器のデータ処理の流れの中で、入出力やインターフェース信号線を電気的手段以外の伝送路に置き換えることが可能であれば、異常電圧に対する機器相互の保護と共に、雑音の影響を大幅に軽減することができます。
 
図1.2 電子装置と電気的雑音
 

 同じ電磁波でも、情報伝搬に使用される電波と光では波長領域が大きく異なるので、空間あるいは光ケーブルによる光エネルギー信号伝送路では、互いに干渉し合うことはまずありません。したがって電気的伝送路で生じる前述の諸問題の解決に際して、光伝送が非常に有効な手段となります。しかし現実的には、必要な性能に見合ったコストでなければ代替の意味がありません。光伝送系の採用を検討するには、データ処理の流れの中でこれらの点に充分な注意が必要です。



   

 

1.6 光技術の信号伝送への応用
 

 云うまでもなく、光ケーブルによる通信をはじめとして現在、光伝送技術を応用した分野が大きく広がっています。伝送の高速化,大容量化にともなって、さらに新製品,新規格が次々と生まれていますが、とりあえず在来の規格と互換性のある信号伝送関連をあわせて項目をあげておきます。

  1 デジタル系


○デジタル信号回線、電話,eメール等の通信回線
○機器内、機器間伝送用ケーブル
○RS232Cケーブル
○RS422ケーブル
○セントロニクスケーブル
○LANケーブル
○MIDIケーブル
○デジタルオーディオケーブル
○FA,OA制御用光ケーブル
○電力線、光ファイバ混在ケーブル
○その他の制御用ケーブル
○防爆形機器への応用
○高耐圧、高絶縁フォトカプラとしての応用


  2 アナログ系

 アナログ伝送
○温度、湿度、圧力等の信号伝送
○地震、波高、気圧等気象データの伝送
○心電,筋電,脳波等医療,生理用機能信号の伝送
○AT,CT等の商用周波数信号の伝送
○高圧信号のアイソレーション伝送
○4−20等工業計測信号の伝送
○オーディオ、ビデオ信号の伝送