まずセンサAは化学物質を感知する味覚と臭覚です。この二つはごく特殊な場合以外、通信の手段としてはあまり役には立ちません。
Bの触覚は圧力,温度等の物理量をセンシングします。触覚そのものは情報のセンサとしては分解能が低く応答速度も遅いのですが、点字やキーボード等などの補助手段を使って送受信機能を強化することができます。直接アクチュエータとして対応するのが、運動機能を持つ四肢,指などです。
Cの聴覚は、空気の振動を媒体とし、有効範囲は限定されますが情報伝達に重要な役割を担っています。最初に述べたように、発声器官をペアのアクチュエータとする典型的な双方向通信システムといえましょう。人間の耳が聴取可能の振動周波数範囲は 20〜20kHzと比較的広帯域ですが、音声による言語の伝達は時系列的に直列に行われ、符号化されていない場合、母音あるいは子音の組み合わせによって意味を持たせるため冗長度が大きく、伝達速度はずっと遅くなります。
Dの視覚は光(電磁波)に対するセンサです。可視光線の赤(波長770nm)〜紫(380nm)は、超長波から宇宙線にわたる電磁波の中ではごく狭い認識可能範囲です。受光強度の時間変化に対する応答は数十msですが、高分解能の面パターン認識が可能で、総合的な受容情報量は他の人体センサと比較にならぬほど大きいといえます。また眼は、まぶたという保護機能を持つただ一つの器官です。しかし不思議なことに、人体にはこれとペアになる直接的なアクチュエータは備わっていません。
人間の体は、このように化学,物理,振動,電磁波などと異なる種類の外界の刺激をセンシングすることができるわけですが、これらの生理学的センサは、それぞれユニークな特長を持っています。
味覚,臭覚,触覚は特性が少しずつ違う多数のセルによって面センサを構成し、対象となる物質の微妙な性質を判定します。
聴覚,視覚はそれぞれ顔の両脇に対称に位置するペアのセンサ(耳,眼)が、音あるいは像の入力位相を感知し、立体的な信号として認識します。
人体に加わる外界の刺激のダイナミックレンジは非常に大きく、例えば暗闇と直射日光,演奏会でのバイオリンのソロからフルオーケストラの音量など、時としてそのエネルギー比は数万倍以上に及ぶことさえあります。しかしこれを受け止める人体には、まぶたの開閉は例外として入力レベルを物理的に制限する仕組みを持っていません。それにもかかわらずセンシング機能は破壊されることもなく、ピーク入力に耐え、低レベルの入力も精度よく処理することができます。また人の頭脳はこれらの多様な入力信号に対し、一種の選択性AGC(Automatic
Gain Control)の働きを持ち、この心理的フィルタにより不要な情報が軽減あるいは無視され、信号対雑音比S/Nの向上に貢献します人体のセンシング機能は入力振幅に対し対数的になっていて、絶対値の認識よりむしろ相対的な値の比較,積分能力に優れています。
一般に、広いダイナミックレンジのリニア信号を高精度に処理するには、乗除を加減算に変換する振幅の対数圧縮が有効です。元の信号レベルと信号の変化分の比を積分した場合、信号のレベル(例えば明るさ、平均音響レベル等)をX,その変化量をΔxとすると、センシングレベルSは